書き出しが有名『蟹工船』のあらすじは?作者は?徹底解説
『蟹工船(読み方:かにこうせん)』は作者・小林多喜二によるプロレタリア文学の代表作です。
当時は発禁処分となりましたが、今『蟹工船』に描かれた労働環境が「ブラック企業」を思わせ注目を集めています。
今回は『蟹工船』のあらすじや考察をわかりやすく解説します。
『蟹工船』概要
・『蟹工船』とは
作者である小林多喜二が1929年に発表した作品です。
作品のタイトルにもなっている蟹工船というのは、カニを捕ってそのまま缶詰に加工する、漁と工場をまとめて担う船のことです。
本作はその船での過酷な労働環境におかれた労働者達の様子から、彼らが現状を抜け出すために立ち上がり、ストライキを起こすまでを描いています。
・作者の小林多喜二とは
小林多喜二は1920年代~1930年代に活動したプロレタリア文学者です。
当時日本は軍国主義が台頭しており、軍国主義に逆らうような行為は許されませんでした。
そんな中多喜二は共産主義に傾倒した作品を書き続けたため、特高警察(国に逆らう人・団体などを取り締まる警察)に逮捕されてしまいます。
最期は特高による壮絶な拷問で亡くなりました。
『蟹工船』は多喜二が文字通り魂を削って出した作品の一つなのです。
『蟹工船』の登場人物紹介
それでは『蟹工船』の登場人物をご紹介します。
蟹工船の乗組員たち:働き口がない東北の貧困者たち。生きるには蟹工船に乗って労働するしかない。
浅川:蟹工船で労働者を取り締まる監督の男。蟹工船の労働者を人間と思わず、歯向かう者には拷問を与える。
『蟹工船』は主人公が存在しません。
主に以上の蟹工船の乗組員である労働者たちと、浅川という資本家を主体に話が進みます。
『蟹工船』のあらすじ
・あらすじ(前半)
漁船と工場の役割を担う蟹工船ではいつも劣悪な労働環境が敷かれていた。
漁船であり工場でもあるこの船は工場法や航海法といった法律が適用せず、どっちつかずの存在だったためである。
蟹工船の労働監督である浅川は利益だけを追求し、暴力により蟹工船の乗組員たちを虐待して労働させていた。
休みなく、風呂にも入れず、病気で倒れそうになっても働かせられる…そしてこの労働が辛くて逃げた仲間の一人が浅川により監禁され死んでしまう…などの、まさしく地獄のような状態に蟹工船の乗組員たちは日々憤りを募らせていく。
ある海が大荒れの日、無理矢理漁に出された労働者たちの乗る小型船がロシア人に救出される。救出してくれたロシア人は労働者たちに「プロレタリアート(労働者階級)こそが至高の存在」であると教えてくれた。
ここで労働者たちはこれまで考えていなかった自分たちの「人権」を意識し始めるのだった。
・あらすじ(後半)
※後半はストーリーの大幅なネタバレが含まれます
この小型船に乗った労働者たちは蟹工船へ帰ってくると、ほかの労働者たちにロシア人に教えてもらったことを共有した。
その考えはだんだんと広がり、人権を守るため一致団結してストライキを決行することになる。彼らはストライキを起こし、とうとう浅川を追い詰めた。だが会社が助けを求めた国の海軍によって鎮圧され、ストライキの中心人物が捕まってしまう。
しかし彼らはそこで諦めることはなく、もう一度ストライキを起こす決意を固めるのだった。
プロレタリア文学とは?
プロレタリア文学とは労働者階級にスポットを当てて書かれた文学のことをさします。
当時(1920年代〜1930年代あたり)の日本では資本家と労働者の貧富の差が大きく、資本家が労働者を搾取するような構図は珍しくありませんでした。
その様子を描き、労働者の実態を世間に知らしめることになったプロレタリア文学はたちまち大衆からの支持を得るようになっていきます。
一世を風靡したプロレタリア文学でしたが、国や資本家はこのような作品をよく思いませんでした。
こういった背景に加え、プロレタリア文学やプロレタリア文学者が共産党と強く結びついていることで、これらは厳しく取り締まられることになってしまいました。
最終的にプロレタリア文学は弾圧の一途をたどることになります。
最後の一文の意味とは?
・最後の一文に込められた思い
『蟹工船』の最後は「そして彼等は立ち上がった。__もう一度!」という一文で締められています。
これはあらすじにも書いた通り、一度のストライキは失敗したが労働者たちがまだストライキを諦めていない、もう一度やってやる!という強い意志の表れとなっています。
絶望から始まった『蟹工船』の物語は、希望を残してその幕を閉じるのです。
ちなみに『蟹工船』の付記では、こうして起こされた二度目のストライキは成功したと書かれています。
労働者が団結して立ち向かう勇気、諦めない心が実を結んだのでしょう。
『蟹工船』の名言
ここで『蟹工船』の名言をご紹介します。
・「おい、地獄さ行(え)ぐんだで!」
→言わずと知れた、『蟹工船』の有名な書き出しです。
『蟹工船』の内容を知らなくてもこの書き出しだけは聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
これから行く職場である蟹工船を地獄と表現し、これから蟹工船の中でしなければいけない過酷な労働を示唆しているのがわかります。
・「俺達には、俺達しか、味方が無えんだな。始めて分った。」
→一度目のストライキが失敗に終わった後の労働者(漁夫)のセリフです。
ストライキの際、助けに来てくれたと思った日本海軍が実は浅川が呼んだ応援であり、ストライキの中心人物を捕えて行ってしまった…というシーンで出た言葉です。
彼らはこの出来事から軍隊や国すらも労働者達の味方をしてくれないのだ、というひどい現実を思い知らされることになるのです。
引用:小林多喜二,『蟹工船』,新潮社;改版,1953年 より
小説、映画や漫画情報
『蟹工船』を読むならおすすめはこちらの書籍です。
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『蟹工船』は意外と短い小説です。こちらの文庫本では同じく小林多喜二が書いた『党生活者』とともに扱っています。
『党生活者』は多喜二が晩年特高から身を隠し、地下生活をしていた時の体験をもとに書かれた小説です。
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やっぱり昔の文は難しい!読みにくい!という方には漫画版をおすすめします。
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綺麗かつ、短い時間で読みやすいと評判です。内容もしっかりまとめられているようですよ!
さらに『蟹工船』は2009年に映画にもなっています。松田龍平さんが主演を務め、他にも有名な俳優陣が出演しています。
1953年にも映画化はされていますが、こちらの映画は当時のものよりも映像が見やすく声も聞き取りやすいので、内容の把握にはこちらがおすすめです。
是非ご自分が一番手に取りやすいものから触れてみて下さい。
まとめ
ここまで『蟹工船』のご紹介をしてきました。
『蟹工船』は短い小説にもかかわらず、とてもメッセージ性の強い作品です。
グロい、怖いという印象があるかもしれませんが、最後に労働者たちが立ち上がる姿を見るとここまで読んできてよかったと思える名作です。
またこの作品を期に、作者の小林多喜二という存在を知ってもらえたら嬉しいです。
解説で気になった方は是非一度読んでみてください。